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生活保護—知られざる恐怖の現場(今野晴貴)


 NPO法人POSSE仙台支部の渡辺さんにインタビューに行ったときに、生活保護やブラック企業の話も出てきて、POSSE代表の今野さんが書いた『生活保護』(ちくま新書)と『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)をその場で購入させていただきました。2冊とも読み終えたので、まずは『生活保護』についての感想など。

 NPO法人POSSEは、若者の労働相談や生活相談を行っている団体。本書では、1500件を超える相談対応の経験をもとに、生活保護における違法行政の実態が紹介され、こうした問題が起きる構造についての分析がなされています。

 この本を読んでわかったこと、感じたことなどいろいろありますが、何がすごいかって、生活保護の申請拒否の実態があまりにもひどいこと。最初に取り上げられているのは、京都府舞鶴市に住むシングルマザーBさん(30代)の事例。Bさんは所持金が600円しかなく、生活保護を申請しようと市の窓口に行ったところ、申請書を渡してもらえないため、2012年6月、POSSE京都支部に相談しました。

 そもそも申請書がもらえないという時点でかなり驚きなのですが、書いて持っていっても受け取らないというひどさ。POSSEのスタッフが申請に同行して、そのときの役所とのやり取りが生々しく描かれています。やや長くなりますが、引用します。

 同日午後、今度はBさんの申請に京都POSSEスタッフ3人が同行した。しかし、やはり申請書をもらうことができず、職員に理由を聞いても「もう午前中に話した」としか答えない。
(中略)
 フロアにはC氏と同じ保健福祉係の職員も何名かいたが、「担当じゃないのでわからない」「(C氏を)呼びに行っている」と言うばかりでとりつくしまがない。1時間近く待ってもC氏が姿を現さないため、私たちが自前で用意した申請書を提出しようとしても、職員は「わからない」「受け取る担当ではないので」などとしか答えない。
(中略)
 申請書を受け取ってもらうため、私たちが閉館時間を過ぎても職員と押し問答をしていると、C氏が戻ってきて「もう時間です。業務は終わりました」「もう帰ってください!」と強い口調で怒鳴りだした。しまいにはC氏の「みんな業務の邪魔になるよな!」という声に呼応して、数名の職員が立ち上がって「はい、そうです」「帰ってください」と口々に言いだす、という異常な状況。
 Bさんは申請書をカウンターに置き、「申請します」とはっきり伝え、私たちはその場を後にした。私たちが帰る後ろから、「それは受け取れませんよ。持って帰ってくださいよ!」「Bさん!Bさん!忘れ物ですよ!」と申請書を突き返そうとする職員の声が何度も聞こえてきた。

 当たり前ですが、舞鶴市役所のこうした対応は違法です。このやり取りをしている間にも、POSSEのスタッフは厚労省や京都府の担当者に電話をかけ、舞鶴市役所に指導してもらうのですが、それでも現場の対応が変わらないというのだからある意味筋金入り。

 本書では、こうした「水際作戦」の事例が次々と紹介されていきます。紹介されているのは、どれもここ数年の事例です。また、生活保護受給者に対しても、さまざまなハラスメントなどにより、無理矢理「自立」させて、生活保護から追い出す事例も少なくないようです。

 なぜこうした違法行為がまかり通るのか。行政の財政難から、保護費を削減/抑制したいという予算削減圧力が働くこと、生活保護の決定を担うケースワーカーの人手不足・専門性不足などが挙げられています。

 生保受給者に対するバッシングや世論が、行政の違法行為を支えている側面もあるでしょう。だからこそわれわれは生活保護の実態をもっとよく知る必要があると思います。

 困っている人を見たら助ける、社会的に弱い立場にある人に親切にするというのは、人間の道徳の基本だと思いますが、「道徳教育の強化」を掲げている国が、困っている人を助けず、社会的に弱い立場にある人に厳しいというのはなんとも解せないことです。