敗戦処理としてのプルサーマルと莫大なコスト
日本は被爆国だから自分は決して核兵器を持たないと言っているのですが、他の国は本当はどうかなと思っているかもしれません。とにかくこの再処理でできたプルトニウムを使わなければいけないというので、しかたなく、ここで出たプルトニウムをウラン燃料と混ぜて、MOX燃料というものを作って燃やすことにしました。
MOX燃料とはウラン9にプルトニウム1くらいの割合で混ぜたものですが、これを普通の原子炉で燃やすのがプルサーマルです。プルサーマルっていうのは何のメリットがあるのかというとですね、ウラン燃料が節約できるんですと関係者は言っているわけです。ウランは貴重な物質だから、プルトニウムと混ぜることによってウラン燃料が節約できますと。
だけど、節約できるったってプルトニウムが最大1割くらいしか混ざらないのです。プルサーマルでのウランの資源節約効果は約1割です。最初に言っていた核燃料サイクルはプルトニウムを高速増殖炉で燃やすから、投入量以上のプルトニウムが産出されるので、長期間にわたり日本のエネルギー源は確保されます。でもプルトニウムをウランと混ぜてMOX燃料にしてプルサーマルで燃やしたら、プルトニウムが混ざった分だけウランが節約できるという話で、ウランが1割節約できるだけです。
今や、わが国はこのMOX燃料を作ってプルサーマルで燃やすことを核燃料サイクルと言い始めたんですね。おいおい核燃料サイクルって、プルトニウムが高速増殖炉で増えるのが核燃料サイクルだろと。ウランを1割節約するのが、何で核燃料サイクルなんだと。要するに、高速増殖炉はあまりできそうにない。少なくともこの50年はできないと政府も認めちゃったわけですから、困って、MOX燃料をプルサーマルで燃やすことを核燃料サイクルと言い始めた。
この核燃料サイクルで何ができるかというと、ウラン燃料が1割削減できるわけですが、この再処理をするために莫大なコストがかかります。政府の見積もりで19兆円トータルでかかると言っています(注3)。ただし、六ヶ所村の再処理工場を造るのに、予算では7千億円と言っていたのが、完成したら2兆円を越える費用がかかった。3倍かかっているわけですから、19兆円かかりますというのを3倍すると60兆円くらいかかっちゃうわけです。60兆円かけてウランの1割節約をやることに何か意義がありますか。それならば60兆円の何分の1かでウランを買って備蓄したほうが安いです。
このプルサーマルというのは、まったく敗戦処理なんですね。やろうと思った本当の核燃料サイクルができなくて、プルトニウムが余っちゃったんで、このままにしておくと、使用目的のないプルトニウムを何で持ってるんだと言われるんで、MOX燃料と混ぜてプルサーマルをやりますという完全に敗戦処理、要するに当初の計画通りにはいきませんでしたということなんです。でも、今、電気事業連合会なんかは胸を張ってわが国は核燃料サイクルを始めますと言ってます。嘘つけっていう感じであります。
で、プルサーマルをやろうと思ったら、このMOX燃料も試験データがでたらめで、1回ボツになった。まだこのプルサーマルは始まっておりません。まだこの40トン以上あるプルトニウムをプルサーマルで燃やし尽くしましょうということも始まっていません。まだ燃やし尽くしてないというんじゃなくて、まだ燃やし始めてない状況なのに、さあこれから毎年8トンものプルトニウムを取り出そうという計画に何か意義があるんですかね。
政府、大本営発表19兆円ですからね。大本営発表19兆円でたぶん60兆円くらいの金がかかる新規の再処理をこれからやる意味が何かあるのかといえば、おそらく私はないと思います。これが高速増殖炉ができましたというならば、まったく別な議論をしなければならないわけですが、少なくとも高速増殖炉がない以上、プルトニウムを金かけて取り出す必要はまったくない。今あるんですから、40数トンも。とりあえずこの40数トンを処理するのが先だと思います。
そして40数トンのプルトニウムを処理するためにはプルサーマルで燃やすしかありません、だからしょうがないからプルサーマルやらしてくださいというなら、まずプルサーマルで40数トン燃やして、ここで一度プルトニウムはなくしますということにすべきなんじゃないでしょうか。で、高速増殖炉ができたら改めて使用済み核燃料の再処理を始めてプルトニウムを取り出してこの本当の核燃料サイクルをやるかどうか議論しようじゃないかというのが、私は政策的には正しいと思っております。
注3)2003年11月11日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電気事業分科会の小委員会で電気事業連合会から再処理の総費用として18兆8千億円という数字が示され、これが政府の再処理コストの見積もりの基礎となっている。