相談対応をする

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はじめに

中間支援の業務の基本となるものとして、相談対応があります。相談対応のやり方、手法は、人や組織によってそれぞれで、どのやり方が正解ということはないと思います。ここでは、相談対応の考え方・やり方の一例をご紹介します。福祉の分野での事例検討会議の手法なども参考にしています。

なお、この記事においては、相談する人を相談者、相談に対応する人を対応者と表記します。

基本的な考え方

「誰かの靴を履いてみること」

まず基本的な考え方についてです。以下は、イギリス在住の保育士でコラムニストのブレイディみかこさんのインタビュー記事から。

学校のテストで「エンパシーとは何か」という問題が出て、息子は「誰かの靴を履いてみること」と書いたそうです。英語にそういうことわざがあるんです。
「シンパシー」と「エンパシー」って似ていて、英語圏の人もごっちゃにしている。英和辞典だとどちらも「共感」と出てきます。
でも、英英辞典で見ると明らかに違う。
シンパシーは自分が同意する人や、同情する人に対して、感情が動いたり、感情的に入り込むこと。
エンパシーはたとえ自分が賛成しない人、意見が違う人であっても、その人の立場になって想像する能力。「アビリティー」とはっきり書かれていました。
「共感できる」とか「かわいそう」というんじゃなくて、わざわざひと頑張りして、誰かの靴を履いてみる。

「誰かの靴を履いてみること」息子のテストの回答に思わずハッとさせられる より引用

心理的なカウンセリングや福祉における相談支援では、「共感的理解」が大切と言われます。ここで言われている共感は、シンパシーではなくエンパシーです。しかし、日本語ではその区別がされていないので、「共感的理解」とだけ言うと「同情」や「感情移入」のように受け取られてしまうおそれがあり、注意しなくてはいけません。

中間支援での相談対応でも、あえて相手(もしくはそのステイクホルダー)の立場や文脈を想像して、「誰かの靴を履いてみる」ことが大事だと考えます。

参考:ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ 著)

一緒に考える

対応者が相談者に答えを教える、というのではなく、一緒に考えるという姿勢を大事にします。

正しい答えがあること(例えば、NPO法人が定款変更をするときの手続きの方法)については、その情報を提供すればそれでよいですが、相談される内容は正しい答えがない場合も多いでしょう。「こうした方がよい」「こうすべき」と最初から答えを提示するのではなく、一緒に考えながら相談者が答えに辿り着くことを支援します。

必要な道具

ホワイトボード

相談対応は特別な道具がなくともできますが、ここではホワイトボードを使ってみることをお勧めします。相談のやり取りをホワイトボードに随時記録することで、相談者・対応者ともに状況の理解がしやすくなります。また、言葉のやり取りだけだと、ややもするとふわっとした言葉の行き交う「空中戦」になってしまうおそれがあるので、両者が同じ情報を共有し、同じ課題に立ち向かう上でもホワイトボードの使用は有効です。

無地のノート、プロッキー

しかし、ホワイトボードのないところで相談対応せざるを得ないケースも多いでしょう。そういう場合でも、無地のノートに細字のプロッキーで情報を書くようにし、相談者・対応者の双方が同じ情報を見ながら相談対応をする方法もあります。

また、シート式のホワイトボードや、ノート型のホワイトボードなどの便利グッズを活用してみるのもよいでしょう。

相談対応の流れ

主訴を確認する

主訴とは、相談にあたっての相談者の主たる訴えです。日常的な言葉ではないので、「主訴は何ですか?」というような聞き方よりは、「どのようなことでお困りですか?」とか「今回の相談で解決したい(明らかにしたい)ことは何ですか?」のような聞き方をした方が相談者も答えやすいでしょう。

この後の事実確認や課題の整理によって、解決したいことが当初と変わってくることもあり得ますが、ここではまず、相談開始時点での相談の方向感とゴール感を確認するようにします。

事実確認をする

相談内容に関して、具体的な事実を確認していきます。ここで大事なのは、事実と評価を分けて考えることです。評価には多かれ少なかれ、主観が入ります。主観が最初から入っていると、「課題はこうだ」と決めつけてしまうおそれがあります。課題は何かを整理する前に、先入観なく事実を見るために、この段階では主観を入れないか、もし主観が入ってもそこは情報として分けるようにします。

そのため、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」といった事柄から聞いていきます。一方、「なぜ」という質問はしないようにします。「なぜ」という質問に対する答えには、どうしても主観が入ってしまうからです。

事実を確認していく基本的な方法として、「経緯を確認する」と「状況を図解する」の2つの方法を紹介します。また、参考として、事実確認の手法として優れている、メタファシリテーションについても簡単に紹介します。

経緯を確認する

時系列で事実を追っていくのは、物事の理解を進める上でとても役立ちます。相談者は、現状の困りごとを中心に話す場合もあり、説明の中で時間的な流れが前後することもありえます。そのため、それがいつだったかを明らかにしながら、順を追って何が起こったかを確認するのは大事です。

状況を図解する

相談を受けた内容には、さまざまな主体が関わっていることがあります。その場合、それぞれの主体がどのように関係しているのかわかりやすくするには、関係性を図解で表してみるのが有効でしょう。図解といってもあまり難しく考えず、丸や四角と矢印を用いて、互いの関係性を表すくらいでも十分です。対応者が相談者に質問しながら、状況を図式化していきます。

参考:頭がよくなる「図解思考」の技術(永田豊志 著)

中間支援だと、個人よりも組織を相手にすることが多いでしょう。組織図を描いたり、事業構造を図にすると、組織の状況を理解しやすくなります。また、組織図と併せて、組織の意思決定の仕組み(どの会議で何を決めているか)を確認するのも、その組織の状況を理解する上で役立ちます。

メタファシリテーション

メタファシリテーションは、単なる事実確認の手法に留まらない、コミュニティの課題解決を支援する実践的な技法です。NPO法人ムラのミライの和田信明氏と中田豊一氏が途上国の農山村での支援をする中で、手法を開発し、体系化していきました。

「ファシリテートする側が当事者に対して事実のみを質問していくことによって、当事者が思い込みに囚われることなく自分の状態を正確に捉え、そのことによって自分の経験知から課題の解決につながる示唆を主体的に得る過程を創り出す手法」と定義されています。

参考としてメタファシリテーションの書籍を読んだり、研修を受けてみることもお勧めします。

参考:メタファシリテーションとは
参考:途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法(和田信明、中田豊一 著)

課題の整理をする

事実関係がある程度見えてきたところで、課題の整理に移ります。事実確認をしていた中で、当初の主訴とは違った課題が見えてきているかもしれません。相談者自身がそうした課題に気づいてくれば、その後の取り組みのスピードは早まるでしょう。

課題を整理する上で大事なのは、誰にとっての課題か、他者の視点を持つことです。立場が違えば、見えてくる課題も違ってきます。支援団体と受益者でも違いますし、その他のステイクホルダーにとっても違います。また、同じ団体でも代表者や役員と現場のスタッフとでは課題の見え方が違うかもしれません。

場合によっては、誰かと誰かの課題(利害)が対立することもあり得ます。公共的な観点から判断し、何を大事にすべきかを考えて、相談者と課題の整理と取り組む優先順位づけをしていきます。

対応策を検討する

取り組むべき課題が整理されたら、対応策を検討します。対応策を検討する上で大事になるのは社会資源(リソース)と情報です。どのような対応策がとれるかはリソースによるところが大きく、対応者はそうしたリソースを多く知っていることが求められるでしょう。

しかし、相談対応の時点で直接的に利用できるリソースの情報が少なくても、ここに訊くと情報があるのではないかという問い合わせ先を知っていると、リソースにつながることができます。あと、情報ということでは、同種の課題に対する有効な事例を知っていると、参考になるでしょう。

対応策は課題の種類や難易度、利用できるリソースなどによって、複数の案が検討されることもあります。重要性や緊急性、メリットやデメリット、考えられるリスク、かかるコスト(金銭、労力等)などを勘案し、対応策を取捨選択したり、優先順位をつけたりします。

課題が大きい場合には、例えば短期的な目標と長期的な目標を定めるなどして、対応策もそれぞれ決めるとよいでしょう。

役割を決める

対応策を決めることとある程度セットになりますが、誰が、いつまでに、何をするかを明確にし、対応策が実行されるようにします。基本的には相談者が対策を実施していくことになるでしょうが、リソースの紹介を行う場合など対応者が何らかの対応をすることもあります。

そして、必要な場合は、次の相談の予定を決めるなどします。

相談記録を作成する

対応者は、相談対応の内容を忘れないうちに、早めに相談記録をつくるようにします。ホワイトボードに記録をとっておけば、ホワイトボードの写真をスマホで撮って相談者と共有するのが一番簡単な記録の共有になります。

ただ、相談者とだけでなく、組織内で情報共有する必要性もあります。対応者が気になったことや、他のスタッフと共有したいことを所感として記録に残しておくのも大事です。相談記録のフォーマットを作っておくとよいでしょう。ワードのテンプレート機能やセールスフォース等を使って、団体としての相談記録も作成するようにします。

ホワイトボードの使い方

相談対応でホワイトボードを使う際には、左上に日付と時間、タイトル(もしくは主訴)を記入して、何の写真かすぐわかるようにします。

また、色分けの工夫をします。例えば、事実については黒で書き、評価や課題については赤、対応策については青にするなどします。文字を赤や青で書かなくても、後から赤や青で線を引いたり、囲んだりすることもできます。

事前の準備

相談対応をするにあたって、もし可能であれば事前に情報を集められるとよいでしょう。事前に電話で主訴やその周辺情報を簡単に伺ったり、相談を受けるにあたっての相談依頼シートを事前に書いてもらうなどの方法があります。

その上で対応者も課題やリソースに当たりをつけて、情報をあらかじめ調べておくことができます。

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