さいたま市市民活動サポートセンターの利用団体の中に原発や憲法9条、拉致問題など政治的テーマを扱う団体があることを自民党市議らが問題視し、同センターの指定管理者制度を取りやめる条例改正案が2015年10月16日、市議会で可決されました。これは公共性の確保などの観点から、非常に大きな問題だと思われます。
- 市民活動センター:NPO管理取りやめ 条例改正案、市議会へ さいたま /埼玉(毎日新聞)
- NPO運営施設 市が直営化へ(NHK 首都圏 NEWS WEB)
さいたま市市民活動サポートセンターはさいたま市の設置する公共施設であることから、何が問題か、あるいは問題でないかは、施設の設置条例を確認する必要がありますが、まず議論の前提として、特定非営利活動法人(以下、NPO法人)と政治活動との関係を法律の面から見ていきます。
なお、この稿ではNPO法人についてのみ扱い、他の法人格や任意団体については扱わないものとします。そして、今回のさいたま市市民活動サポートセンターの件については、稿を改めて論じます。
結論を最初に言うと、NPO法人は政治活動ができます。ただし、いくつかの制約があります。
以下、要点を説明します。
目次
①NPO法人が「政治上の施策」の推進をすることにNPO法上の制約はない。
特定非営利活動促進法(以下、NPO法)の第2条2項2号では、NPO法人の要件について以下の規定があります。
イ 宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とするものでないこと。
ロ 政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと。
ハ 特定の公職(公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第三条 に規定する公職をいう。以下同じ。)の候補者(当該候補者になろうとする者を含む。以下同じ。)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とするものでないこと。
政治活動に関係があるのはこのうちロおよびハです。まずロから見ていきましょう。
ロの「政治上の主義を推進等」の意味については、政治資金規正法第3条1項等の「政治上の主義若しくは施策の推進等」という条文から来ています。ここで大事なポイントは、「政治上の主義の推進」と「政治上の施策の推進」は別のものであり、NPO法において後者についての制約はないということです。
それでは「政治上の主義」と「政治上の施策」はそれぞれどういうものでしょうか。
「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的、恒常的、一般的な原理や原則を指し、資本主義や社会主義といったものがこれに当たります。「政治上の施策」は、政治によって実現しようとする具体的な方策を指し、自然保護や老人福祉対策などがこれに当たります(*1)。
よって、NPO法人がある政策を提言する、あるいはある政策に反対するということについて、NPO法上は問題ありません。
②「主たる目的」でなければ、NPO法人が「政治上の主義」を推進してもよい。
NPO法第2条2項2号のロでは、「主たる目的とするものではないこと」との言葉が入っています。つまり、主たる目的では政治上の主義を推進できませんが、従たる目的であれば構わないということです(*1)。
③「目的とするもの」でなければ、NPO法人が結果として特定の公職の候補者の推薦等とみなされる活動を行うことまでは否定されていない。
NPO法第2条2項2号のハでは、「目的とするものではないこと」と書かれています。これはNPO法が制定される際、参議院の段階で修正で入れられた文言です。その趣旨は、定款に書かれるような事業活動の範囲として選挙活動等が行われないのであれば、結果的、偶発的、あるいは付随的な形で公職者等を批判するということには当たらないようにするためです(*2-②)。
やや長くなりますが、NPO法の逐条解説での説明も引用します。
また、本条2項2号ハの趣旨は、特定の公職の候補者等の唱える「政策」について、それを支持したり、反対すること、つまり、これらの者について選挙において当選を得せしめ、あるいはそれに反対するような活動およびそれと同類の活動を目的として活動することを禁止している、と限定的に解釈されるべきである。たとえば、特定の政党や候補者の政策に反対や批判をすること、賛成をすることは、団体の目的の範囲内であれば許されると解釈できる。また、団体の目的から行う住民訴訟も可能である。
(堀田、雨宮編『NPO法コンメンタール-特定非営利活動促進法の逐条解説』1998年 p.94 )
よって、例えば環境保護を目的とするNPO法人が、その活動に付随して、環境破壊を伴う開発を行おうとする特定の政治家・政党の政策に批判や反対をすることや、自然保護を推進しようとする特定の政治家・政党の政策に賛成することは禁じられていないと言えるでしょう。
④認定NPO法人は一般のNPO法人よりも政治活動の制限がある。
認定NPO法人の場合、NPO法第45条1項4号イにおいて次のような規定があります。
イ 次に掲げる活動を行っていないこと。
(1) 宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること。
(2) 政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対すること。
(3) 特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること。
NPO法人の要件と異なるのは、(1)(2)については「主たる目的とするものでないこと」、(3)については「目的とするものでないこと」という文言がなくなっていることです。そのため、認定NPO法人においては、政治上の主義の推進等の活動や特定の候補者等の推薦等の活動は、その目的にかかわらず認められていません。
しかし、認定NPO法人においても、「政治上の施策」の推進や反対の活動をすることには制限がありません。
以上見てきたように、NPO法上、一部制約はあるものの、NPO法人が政治活動を行うことはできます。「NPO法人は政治活動をしてはならない」という意見がしばしば聞かれますが、NPO法上はそれは当たらないと言えます。
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続きの文章を書きました→さいたま市市民活動サポートセンターにおける市民活動と政治の関係の問題を市の条例から考える
*1 詳細は、NPO法の逐条解説(堀田、雨宮編『NPO法コンメンタール-特定非営利活動促進法の逐条解説』1998年)や内閣府ホームページのQ&A(3-8-3、3-8-4)等を参照してください。
*2 NPO法は超党派による議員立法によってつくられた法律です。国会における提案者側の答弁が、条文の解釈にも反映されています。関係する答弁を以下に掲載したので、こちらも参考にしてください。
①1997年5月29日 衆議院内閣委員会
金田(誠)委員:(前略)
この宗教に関する条項の次に、「政治上の主義を推進し、」という条項が連なっているわけでございます。第二条第二項第二号のロでございますが、「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とする」というものは、これは認証外になってしまうわけでございますけれども、その解釈でございます。
先ほど来も主義と施策の違い、既にもう明らかになったかなと思いますけれども、繰り返しになりますが、確認をさせていただきたいと思います。特定の政策を提言をし、これを目的とするという活動は、この規定による「政治上の主義」ということとは別だ、含まないというふうに理解をしていいかどうか、再度確認をさせていただきます。
(後略)辻元議員: ここの部分は、この案をつくるときも随分議論してきた部分ですので、正確にお答えするために、私たちがこの提案者と、そして法制局の皆さんのお知恵もかりまして、一文つくってありますので、これをしっかり読ませていただきますので、御確認ください、間違えると大変ですから。
「「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的・恒常的・一般的な原理・原則をいい、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなものがこれに当たる。」この政治上の主義と政治上の施策とは区別されております。ですから、政治上の施策の推進、支持、反対を主たる目的とすることは禁止されておりません。この政治上の施策とは、政治によって実現しようとする比較的具体的なもの、例えば公害の防止や自然保護、老人対策等というものと解されております。
なお、主たる目的とするものではあってはならないと規定されておりますから、政治上の主義の推進等であっても、これを従たる目的として行うことは禁止されておりません。
それと、今御指摘の、さまざまな政策を提言していく、これは今いろいろな市民活動の中でも活発に行われていることで、これは施策に当たりますので、できるというふうな解釈です。それから、その施策に対する政策提言が、どのようなお立場であっても、この法律によっては制限されるものではないというふうに確認できます。
(後略)
②1998年3月17日 衆議院内閣委員会
倉田委員:(前略)
そこで、今の話の続きでもう一点、これは今回参議院段階で修正をされたことにもかかわるわけでありますけれども、「特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれに反対することを目的とするものでないこと。」こういうふうにございます。
ここの文でございますが、例えばこれも、法人として認証された団体は、ここに言う公職者に対するいわば批判、この批判の自由というのを制限されたようにも見えます。この点、憲法上保障される表現の自由と問題ないのかどうか。また、この部分は衆議院段階でも問題になったわけですけれども、主たるという言葉がない分だけ余計にそう見えるわけでございますが、この点、参議院としてはどうお考えになったのか。
私がこのように申し上げますのは、例えば、この法人が首長を相手に訴訟を起こしたり、あるいは、首長をやめろ、こうリコール運動を起こしたりするようなことが、公職者に反対することを目的とするものでないことという規定からすればできなくなるおそれがあるのではないのか、そう思うわけです。この点はどうでしょうか。
こう申し上げますのは、例えば、公職選挙法、ここに言う公職者というのは、例えば首長であるとかあるいは政務次官だとか、いわゆる選挙によって選ばれたことが当てはまるんだと思うのですね。そういう人たちに対してはそういうことを、反対することをしてはいけないけれども、例えば事務次官だとか副知事だとか、そういう人たちに対してはやってもいいみたいな形になってしまって、この辺どうなのかなと何となく疑念を持ったわけです。
「反対することを目的とするものでないこと。」と、参議院ではこのような修正を入れていただいた、私はこのように理解をいたしておりますが、今私が申し上げました点については、提案者としてはどのように理解をされておられるわけでしょうか。山本(保)参議院議員:(前略)
まず、立法者意思として、この条文が表現の自由でありますとか結社の自由等に触れるものではないと先ほど海老原議員からもお話がありましたように、そういうものではないのだということは確認させていただきましたが、しかし、法文である以上、この法文がひとり歩きするようなことがあっては困るわけであります。本来的には全面削除もしくは全面書きかえを私どもは最後までお願いいたしましたけれども、諸般の事情からそれは難しいという御返事でありましたので、私どもとしましてもぎりぎりの妥協としまして、今先生がおっしゃったような修正をお願いし、受け入れていただいたわけであります。
この「目的」という言葉を入れましたことによりまして、いわば、先ほどいろいろなお話がありましたけれども、結果的に、またあるいは偶発的に、そして付随的な形で公職者等を批判するというようなことには当たらないようにしよう。また、衆議院における提案者におかれましても、今回の議論をずっと見させていただきますと、この条文につきましてはすべて選挙に関する議論しかされていないという、これが立法者意思であるというふうに私どもも考えました。それであるならばということで、「目的とするものでない」と入れさせていただいたわけであります。
言うなちば、この法人の目的とは、つまりすなわち、定款で定められるような事業活動の範囲としてということでございます。そして、それによって特定の公職の候補者等を推薦、支持、これらに反対することが行われるものでない場合にこれに当たるのであるというごとでございます。ようなということでございますので、定款に定められるようなということから、実際上定款に書いてあるということよりは、客観的に、実態的に、そのようなものとして、目的として動いていたということがここで事後的に判断をされるということはやむを得ないかと思っております。
それから次に、訴訟等でございます。
これにつきましては、既に衆議院段階で、衆議院の提案者の方から、住民訴訟等は、これは全く住民として保障された権利であり、これはこの条文に当たらないという答えをいただいております。
ただし、市長や議員のリコール、解職請求につきましては、リコール自体は選挙運動ではないということでございますが、この法の趣旨であります公職によって選ばれた者についての、その身分についてのものでございます。そこで、この条項の意味しておりました選挙運動類似の活動であると考えられますので、繰り返しになりますが、定款で定められるような法人の事業範囲、事業活動の範囲としては、このことはできないというふうに考えております。
ただ、当然のことではありますが、法人として行う、法人の目的として行うことはできないわけでございますが、個人あるいはその有志がグループとして行うことについて制約するものではないことは、これはもう当然のことでございます。
(後略)