発達障害の子どもたち(杉山登志郎)

 地星社で活動するようになってから、以前よりも発達障害の話題に触れることが多くなりました。NPOの活動の現場により出向くようにしたこともありますし、子ども支援のNPOとかかわることも増えたからです。そこで改めて発達障害はいかなるものかを知るために、この本を手に取ってみました。

 著者は小児精神科医で、この本執筆時点の肩書きはあいち小児保健医療総合センター保健センター長。専門は児童青年期精神医学で、発達障害に関する著書も多数あるようです。

 この本は、専門家の立場から、自身がかかわった事例も紹介しつつ、発達障害について平易に解説しています。発達障害についてのさまざまな俗論についても、科学的な見地から著者の見解が示されています。

 読んで関心を持ったことをいくつか。自分のメモ的に書くので、自分以外の人にとっては説明が不十分でよくわからないかもしれませんが。

◯発達障害(developmental disorder)

 障害を英語で記すとdisorder。disは乱れを意味し、orderは秩序を意味する。発達障害はdevelopmental disorderで、英語のニュアンスからすると、発達障害は「発達の道筋の乱れ」あるいは「発達の凹凸」とのこと。知能を構成する能力の諸因子間のばらつきが大きく、そのため結果的に境界知能となることも多いそうです。

 著者による発達障害の定義は次の通り。

「発達障害とは、子どもの発達の途上において、なんらかの理由により、発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凹凸を生じたもの」

◯発達障害の4つの分類

 著者は発達障害を4つのタイプに分類しています。

第1グループ…認知の全般的遅れ 精神遅滞、境界知能
第2グループ…社会性の障害 知的障害を伴った広汎性発達障害、高機能広汎性発達障害
第3グループ…行動のコントロールの障害 注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害
第4グループ 子ども虐待

 子ども虐待が入っていることに驚くのですが、あとで1章分が子ども虐待のことに割かれています。

◯自閉症

 自閉症の社会性の障害について、著者は「自分の体験と人の体験とが重なり合うという前提が成り立たないこと」と表現しています。これはどういうことか。その一例として逆転バイバイという現象が紹介されています。

 健常児の場合、乳児期の後半からバイバイの真似をして手を振ることができます。しかし、自閉症児の場合、手のひらを自分の方に向けてバイバイをするそうで、これが逆転バイバイと呼ばれています。大人が赤ちゃんに手を振るとき、手のひらは赤ちゃんの方に向いています。だから、機械的にそれを真似るならば、自閉症児の方が正しいわけです。しかし、赤ちゃんでも、自分の体験と人の体験が重なり合うという前提があるため、通常は相手の方に手のひらを向けてバイバイをするのであり、自閉症児の場合はその前提が成り立っていないのです。

◯子ども虐待

 軽度発達障害は被虐待の高リスク要因であるが、一方で被虐待児は愛着障害に基づく多動性行動障害を中心とする臨床像を示すとのこと。著者の論文がネット上にあったので、リンクしておきます。

 「発達障害と子ども虐待」(PDF)

◯特別支援教育

 特別支援学校や特別支援クラスでの教員の専門性については課題があるようです。専門免許を持つ教員の割合が、特別支援学校では61パーセント、特別支援クラスでは30.8パーセント(いずれも2006年)とそれほど高くありません。しかも、この中には特別支援教員免許認定講習という短期の集中コースで免許を取得しているケースもあるということです。どう考えても高い専門性が求められる職業だと思うのですが、日本において特別支援教育はあまり重要視されていないということなのでしょうか。

 もうひとつ、著者の懸念として書かれていたのは、学校教育の現場にいる教師は、子どもたちのそだちに対し、成人まで責任を持つことが少ないから不適切な対応をしていても、それに気づかなかったり鈍感なのではないかということ。特に、子どものニーズを理解せずに通常学級に通わせようとすることについても、無責任な対応だと批判し、学校の選択にあたって大事な原則は「授業に参加できるかどうか」であると主張しています。

 教育関係者や子ども支援NPOなど、子どもにかかわるお仕事をしている人にはおすすめの一冊です。

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